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病理標本の薄切「薄切と静電気 3」

  • 執筆者の写真: りょう
    りょう
  • 6月14日
  • 読了時間: 2分

前回の記事で薄切とは静電気を発生させる作業であるとお伝えしました。

さて、薄切時に静電気が発生するとどんな事になるのでしょうか?


答えは「切片にならずボロボロに崩れる」です。


発生した静電気は分子内の電子が偏った状態です。この状態は不安定である為、再度物体同士の接触や、空気中の水分子を通じて放電されると元の安定した状態に戻ります。この電子の移動時に微弱な力が発生します。


静電気はもとに戻ろうとする
偏った電子がもとにもどろうとする仕組み

この電子の移動による微弱な力で切片が形を保てなくなるのです。

何故、病理切片はこんな小さな力に負けボロボロになってしまうのでしょうか?

ここで病理標本における細胞同士の繋がりに着目してみます。

病理標本の厚さを考える
病理切片から4μmの厚さを想像する

画像は大腸腫瘍部の完成した切片の顕微鏡画像です。

この中に矢印で挟まれている点線の中が約4μm分の幅を書き入れてみました。これを切片の厚みと考えて画像を切り出してみましょう。


病理切片は非常に脆い
病理切片は非常に脆い

図にも書き入れた通り、切り出した4μmと想定した厚みの画像を観察すると色の濃淡がはっきりと確認出来ます。また、細胞核や細胞膜もまばらに存在しており、非常に繋がりの不安定な状態である事が想像できます。

その為、薄切時に発生した静電気の小さな力でも細胞が崩れ、ボロボロの状態になり形を保てないのです。


これを解決するためには、薄切時に「静電気を発生させない」事しかありません。


そこで静電気を発生させず、結果的に切片の形を崩さず採取する為に編み出されたのが皆様が受け継がれてきた薄切技法なのです。


もう一度代表的な薄切技法を記します。


1.パラフィンブロック冷却法

2.息がけ法

3.加湿器噴霧


経験的に培われたこれら全ての技法が静電気を発生させないための技法である事を今後お伝えしたいと考えています。



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